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株式会社ランドスケープ・プラス|LANDSCAPE PLUS LTD

【TOPIC】新年明けましておめでとうございます。         


皆さま、新年明けましておめでとうございます。

ランドスケープ・プラス代表の平賀です。本年も、どうぞよろしくお願いいたします。

 

私たちランドスケープ・プラスは、本日1月7日より始業いたします。賀状やメールにて年始のご挨拶を下さった皆さまには、この場をお借りして心より御礼を申し上げます。

昨年より年賀状を控えさせていただいており、本メールにて新年の挨拶と年始の所感をお伝えさせていただきたく、長文ではございますがご一読いただけますと嬉しく思います。

 

ミレニアムイヤーに世界中が沸いた2000年から早や四半世紀となる2025年。有史以来、人類はいま最も変化の激しい時代を生きているといわれています。そして21世紀に入り、私たちが属する設計や建設の業界にも多くの変化が起こりました。今後はより大きな変化の波が私たちを待ち受けていることは周知の事実です。しかしながら、不確実な出来事が多くなると、新たなチャンスが増えることもまた事実です。大切なことは、いままでの常識を疑い、間違いがあっても自己修正を行いながら常に前へと進んでいく。そのような覚悟を持つことではないでしょうか。ここでは、私どもが近年携わってきた幾つかのプロジェクトをご紹介し、変化の時代を生き抜くためのデザイン思考を皆さまと共有できれば幸いです。



大きな変化の背後にある二つの要因


私たちの生活や社会に大きな変化が起きている背景には、大きく二つの要因があると考えます。一つ目は、テクノロジーが加速度的に進化していることです。人工知能(AI)の進化による社会変化は、半導体のデータ集積性能が「18ヵ月で2倍」になるというムーアの法則が半世紀に渡り続いているためだといわれています。つまり、3年で4倍、6年で16倍、50年では100億倍の性能をコンピュータが持つことになるわけです。テクノロジーの急激な進化は、昨年行われた国内外の選挙活動におけるディープフェイクの露呈などにより、AI生成などの高度な技術を使用する上での倫理観と、それらを規制する上での法制度の不在に大きな問題があることを明らかにしました。

 

二つ目は、地球温暖化の進行を誰もが実感していることです。人間活動に起因したこの気象変化は、深刻な干ばつ、水不足、大規模火災、海面上昇、洪水、壊滅的な暴風雨、生物多様性の減少などを世界中で引き起こしていますが、日本ではこの気候変動に加えて、地震発生の多さが自然災害に備えた取り組みをより難しくしています。ただし、コンピュータのアプリ上で、数万人規模の市民によって集められた環境観測記録が数百の学術論文に貢献した事例や、一定数の賛同を得た市民の提言が使い捨て容器の規制につながる事例など、あらゆる人に科学や政治への参画を拓くようなデジタル・インフラが気候変動対策の後ろ盾になっている事実も見逃せません。その一方で、企業が環境貢献を隠れ蓑に営利を貪るグリーンウォッシュが象徴するように、グローバルな倫理観を持ったローカルな法制度の確立が急務であることもまた事実です。技術と環境という二つの異なる要因が、倫理と規制という同じ課題を共有しているところに、私は不確実な未来の解像度を高められる可能性を感じています。



大きな変化の背後にある二つの要因


いままさにAIの進化によって技術革新が加速し、AIを実装したデジタル・インフラが社会サービスの重責を担いはじめています。日本では、グローバルな経済に遅れをとらぬよう経済産業省がこれらの法制度を所管しています。一方で、老朽化した道路や河川などを持続可能な社会インフラに更新する手立てとして、グリーン・インフラの開発手法に注目が集まっています。高齢化や温暖化の影響を受けやすいローカルな場所から整備を進められるよう、国土交通省が様々な法制度の改正を進めています。これら二つのインフラを意志ある一つの体系に統合していくことが、自然科学に立脚して社会の持続性を構築するランドスケープアーキテクトの役割だと考えるようになりました。なぜならば、AIに経済の原理を習得させようとしても、結局AIは自然の摂理から人間の倫理を学ぼうとするからです。

 

テクノロジーとネイチャーをセットにしたプラットフォームの可能性を考えるきっかけになったのは、大阪・関西万博のコンセプト策定委員を務めたことからでした。私は環境デザインの専門家として、政府が掲げる未来社会(Society5.0)という概念を、リアルな場所に落とし込んで、具体的な近未来の社会像を明らかにしたいと考えました。そこで、関東平野を例に挙げ、狩猟社会(Society1.0)が、12万年前の地球温暖化によって形成された平野と山地の周縁で生まれたこと。そして、農耕社会(Society2.0)が、7千年前の縄文海進によってつくられた洪積台地と沖積低地の狭間で営まれたこと。さらには、工業社会(Society3.0)が、産業革命後の蒸気船による物流増加により海と陸の境界で発展したこと。その上で、これらの社会が発現した場所は、生態学でエコトーンと定義される場所にあって、人工による文明の発展と自然における生態系の進化がある時代までは共生していたことを、地球活動の変化によって生成された地勢構造と照らし合わせることで明らかにしました。

 

地球活動が安定し自然災害の少なかった時代は、人間の思考が自然の法則よりも優位に立つので、テクノロジーが発展します。いわゆる工業社会、情報社会(Society4.0)によって築かれた人工資本が基盤となるグローバル指向の社会です。しかしながら、気候変動に象徴される地球活動の変動期には、自然の脅威が人間の活動を制限するため、エコロジーが進化します。いわゆる狩猟社会、農耕社会によって培われた自然資本が基盤となるローカル志向の社会です。日本政府は未来社会(Society5.0)を、バーチャル空間とフィジカル空間を融合した人間中心の社会と定義していますが、この社会を実現するためには新たな進化を遂げやすい場所の選定が重要だと考えたのです。気候変動のいま、AIは自然優位の生態学的思考によって、社会課題の解決を図るであろうと考えたからです。

 

AIが新たな社会基盤としてグローバルに拡張するほど、都市に依存集中する社会よりも、地方に自律分散した社会へと人々を導くようになるのではないか。その理由は明快で、限りある自然資源とともに私たち人間が生きていくためには、全ての科学技術は生態系の一部としてそれぞれの環境で進化せざるを得ないからです。自然資本を基盤に据えたグリーン・インフラと、生態学的な進化のプロセスを支援するデジタル・インフラが融合したその先に、政府が掲げる未来社会(Society5.0)の風景が見えてくるのではないか。その風景が最初に立ち現れるのは、ビルで埋め尽くされた都心の臨海部からではなく、山地と平野の周縁、あるいは台地と平地の狭間からである。そして、市民自治により管理運営されている鎮守の杜や里山の森といったコモンズが、人々の暮らしに根づいているようなエリアにこそ、デジタル・インフラを実装すべきである。これが大阪・関西万博のコンセプト策定における私からの提言でした。そして、この委員会で思考した未来社会に向けたビジョンが、私たちランドスケープ・プラスの新たなデザイン戦略となっていきます。



山地と平野の周縁にある前橋での取り組み


2024年に竣工した前橋の馬場川通りアーバンデザインプロジェクトは、空間設計と制度設計を両立させた地方創生の先駆的な事例として多くのメディアに取り上げられてきました。特筆すべきは、地元有志の企業家が3億円を拠出して公共工事を成し遂げたことです。国土交通省としても国内の地方都市が疲弊するなかで、地元の寄付でインフラの再整備が行われることを歓迎し、新たな補助金制度をつくって支援してくれました。この難解な仕組みを実現させている背景には、官民連携を推進するための法制度を熟知した行政の存在と、地元や市民の信頼を得ていた民間団体・前橋デザインコミッション(MDC)の連携体制があったからに他ありません。

 

私たちランドスケープ・プラスは、プロジェクト全体のデザイン統括者として、基本計画から工事監理、そして完成後の管理運営に至る空間づくりの構築と仕組みづくりの支援に携わってきました。デザイン統括者に求められたミッションは、気候変動や社会変容といったグローバルな課題を前橋ならではのローカルな発想で解決することでした。着目したのは前橋発展の礎となった水路の存在です。かつての前橋中心市街地は、前橋城の外堀を成す利根川から取水した大小様々の水路が城下のまちを網の目状に流れていました。しかし戦後の都市化によって水路には蓋がされ、車が中心のまちへと変貌していきます。また近年の前橋は酷暑で有名ですが、関東平野の周縁にあって都心部の熱波が夏の卓越風で押し寄せてくることがその原因だといわれています。ならば利根川の冷えた水で都心部の排熱を奪える基盤を持つことが、関東圏の新たなエネルギー交換の秩序になり得るのではないかと考えたのです。

 

その上で、私たちは人と水の距離を物理的にも精神的にも近づけたいという思いを持って、水路の蓋を外して手摺を取り払うデザイン提案を行いました。誰もが自分の場所だと思える場所にするためには、管理者の立場よりも利用者の気持ちに寄り添うべきだからです。手摺を無くした提案に対し、資金提供者からは満場一致で承認を得ますが、行政管理者からは受けとることが出来ない、という返事でした。水路に人が転落して事故が起きたら、誰が責任を取るのかという話になるわけです。協議は難航し、事業そのものが頓挫しかけました。その時、本事業の所管である市街地整備課が、馬場川通り全体の管理窓口を引き受けると決意してくれた。いま振り返れば、そこが事業の成否を分ける大きな分岐点となったのです。

 

市街地整備課による英断の背景には、都市利便増進協定制度(地域住民やまちづくり団体などが、住民や来街者の利便を高める施設を一体的に整備・管理するために締結する協定制度)を活用すれば地元の住民が通りの管理や運営を行える、という確信があったのです。そして、通りの管理運営資金を捻出するため、ソーシャルインパクトボンド(SIB)という成果連動型融資制度を国内初となるまちづくり事業で採択。事業の目的を通りのにぎわい創出として位置づけ、前橋市が通行量の増減を成果指標とするSIBを活用してMDCに委託します。整備前と整備後における通行量に応じて4段階の成果払いを設定し、最も高い評価を受けて通常の委託金額よりも2倍近い報酬を得ることに成功しています。また、前橋工科大学の協力を得て、通りの照明ポールに歩行者の通行量を認知するAIカメラや気温や湿度を計測するセンサーを設置し、通りの快適性能が通行量の増減にどのような影響を及ぼしているかを科学的に検証しています。

 

灌漑用水としての役割を終えた水路を、グリーン・インフラやデジタル・インフラを実装したコモンズへと再編した馬場川通りの取り組みは、城址を抱える地方都市の中心市街地にも必ずや勇気を与えるに違いありません。これからのまちづくりは、国際社会における経済動向に左右されないよう、地域に残る歴史や文化を守ることに軸足を据えて、ローカルに特化した空間や仕組みを発明していくことが重要な活動目標になると考えます。前例なき課題解決に挑戦するには、グローバルな視野をもってローカルな価値を見出していく必要があります。激動の時代を生き抜くためには、いま置かれた困難な状況に自らの意志をもって風穴を開けることが大切です。これが前橋をこよなく愛する有志から学んだ、これからの時代を生き抜くためのデザイン思考なのです。



自己修正システムを持って進化していく


これらの思考が私の中に生まれてきた背景には、歴史の法則性から長期的な傾向を見出そうとしているイスラエル出身の歴史学者であるユヴァル・ノア・ハラリ氏の影響が大きいと感じています。

 

年始にNHKで放映された「新・トランプ時代 混迷の世界はどこへ」では、ホモ・サピエンスの進化を研究の対象領域とするハラリ氏からコメントが寄せられ、「歴史とは変化の連続である」と述べつつ、世界の混迷はいまに始まったわけではないこと。そして「私たちにはもはや古いルールがあてはまらず、新たなルールが何なのかも分からない混沌とした時代に突入している」と明言し、「最も重要なのは“自己修正システム”、つまり自分には知らないことがあり、自分がミスを犯すことがあると認める能力であり、他者の問題を指摘し修正させるのではなく、自分の間違いを認め、自ら修正していくことが重要だ」と提言します。進化という意味の真言を聞かされた思いでした。

 

変化の時代において大切なことは、技術革新による社会変容や温暖化による気候変動を前提としたものの見方や、新しい仕組みを自らの意志で発見していくことだと思います。狩猟社会であれ、農耕社会であれ、新しい時代を開拓してきた人間は、その好奇心の強さが故に勉強家であったはずです。工業社会であれ、情報社会であれ、新しい技術を開発してきた人間は、誰もが思いもつかないことに挑戦していたが故に異端児として扱われていたと思うのです。いままでの常識を疑い、間違いがあっても自己修正を行いながら常に前へと進んできた人たちのことです。

 

確かなことは、環境が変化する時代は次代の環境に適応したマイノリティから新たなマジョリティが発現するという生態学的な事実です。そして、多様性のある社会を維持するためには、マイノリティを受け入れる寛容性が重要であり、社会の寛容さが支える多様性は豊かな自然環境のもとに育まれるのです。次代を牽引する未来社会を実現するためには、新たな進化を遂げやすい場所の選定が重要だと考える所以がここにあります。前橋という場所に通い続けながら、現代の開拓者と呼びたくなるような人たちと、本音で意見を交わしながら仕事ができる喜びを噛みしめていました。その一方で、これほどの成果を残した彼ら彼女らが持つ能力や知識を、貴重な社会資本財として次代のまちづくりに共有できる仕組みが必要だと感じています。

 

本稿の冒頭で、コンピュータ・アプリを活用した市民の活動や提言が、社会の変革につながっている取り組みを紹介しました。市民科学(シチズンサイエンス)と呼ばれるこれらの取り組みは、スマートフォンの普及やAIの進化によって、市民がより気軽に地域の課題解決に参加できる状況を創り出しています。市民科学という情報共有の仕組みをもってすれば、市民自治によって管理運営されるコモンズでの活動を通じて、地域の自然を科学しながらグローバルな倫理観を育み、地球の現状を理解しながらローカルな最適解を生み出すことができるはずです。自分には知らないことがある、というモチベーションにこそ、地域課題を自己修正の機会と捉え、誰もが自分事としてまちづくりに取り組める環境を創り出す力があるのではないでしょうか。

 

日々の小さな修正や発見の積み重なりが、やがては世界をよりよくする大きな進化につながっていく。そこには、デジタルとネイチャーが融合した未来社会の風景が、市民の意志によって描き出されているに違いありません。私たちランドスケープ・プラスは、常に前へと進んでいく覚悟を持って、今年も新たな取り組みに挑戦して参る所存です。

2025年のランドスケープ・プラスに、どうぞご期待ください。



2025年1月吉日

 

株式会社ランドスケープ・プラス

代表取締役 平賀 達也




   

馬場川通りアーバンデザインプロジェクト(群馬県前橋市)

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